大判例

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最高裁判所大法廷 昭和25年(れ)273号 判決 1950年11月15日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人石川睦男の弁護人後藤英三上告趣意第一点について。

原判決が証拠として採用したのは、所論のように第一審公判調書中の証人五條はんの供述記載ではなくして五条の居宅における第一審訊問調書中の同人の供述記載であるが、この訊問には被告人両名の弁護人高垣憲臣及び被告人石川の弁護人日比野幸一並びに小沼秀之助が立会い(被告人は勾留中で立会っていないけれども)所要の訊問を裁判長に求めている。かようにこの証人の供述については、既にその作成の当時弁護人の訊問する機会が与えられているのであるから、これに対しては刑訴応急措置法一二条の適用はないものと解するのが相当である(昭和二四年(れ)第七号同年六月一六日最高裁判所第一小法廷判決参照)。従って原審において、右五條を証人として申請したことに対し、これを却下しながら、その供述記載を証拠に採用したからとて所論のような違法はない(昭和二四年(れ)第七三一号同二五年三月一五日最高裁判所大法廷判決参照)。論旨は理由がない。

同上第二点について。

原審において弁護士高垣憲臣が被告人谷崎進及び石川睦男両名の弁護人として選任せられたことも、原審公判調書に同弁護人が「被告人谷崎進に対する弁護を辞任すると述べ退廷した」旨が記載されていることも所論のとおりである。しかし両被告人の在廷する公判廷から同弁護人が退廷したことから考えてみると、同弁護人は谷崎の弁護のみならず石川の弁護をも辞任したにも拘らず、公判調書には誤ってその記載を遺脱したものと認められる。それ故論旨はすべて理由がない。

被告人谷崎進の弁護人渡辺靖一上告趣意について。

共同正犯が成立するためには所論のように二人以上の者の間に何日何時頃如何なる方法に於て実行するか等、犯罪実行方法の具体的内容に入った謀議あることを必要とするのではなく、共同目的を実現するため共同犯行の認識あれば足りる。本件の被告人両名は判示五條はんの家宅に押入って金品を強奪することを共謀し、強盗の目的を達したのであるから、原判決がこれを住居侵入及び強盗の共同正犯としたのは正当である。所論のように被告人谷崎が暴行脅迫の実行をしなかったからとて、強盗の共同正犯たる罪責を免れるものでないことは、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二八〇号同二三年七月二九日大法廷判決)に徴してみても明らかである。

論旨は原判決が被告人谷崎に懲役三年の刑を科したことを以て、苛酷に過ぎ権衡を失し憲法三六条に違反するものであると主張している。しかし事実審裁判官が普通の刑を法律において許された範囲内で量定した場合において、それが被告人の側から見て過重な刑であるとしても、これを以て直ちに憲法三六条にいわゆる「残虐な刑罰」と呼ぶことのできないことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第三二三号同年六月二三日大法廷判決、集二巻七号七七七頁)の示すとおりである。それ故論旨はいずれの点も採用することができない。

以上の理由により旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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